ため池百選「南湖」について

【平成22年10月30日ラジオ放送】

担当者:社川沿岸土地改良区 事務局長 山寺 一
司会者:RFCアナウンサー

司会者

今朝の土地連だよりは、このたび、ため池百選を受賞した南湖に対しての取り組み活動に対して、水土里ネット社川(やしろがわ)の事務局長 山寺 一(やまでら はじめ)さんにお話を伺います。
このたびは、ため池百選の受賞おめでとうございます。早速ですが、ため池の役割とため池百選について、お話を頂けますか。

担当者

ありがとうございます。
農林水産省のホームページでは、降水量が少なく、流域の大きな河川に恵まれない地域などで、農業用水を確保するために水を貯え取水ができるよう、人工的に造成された池のことです。ため池は、新田開発や用水不足解消を目的に、古代から近代にわたる長い歴史の中で築造され、現代に至っても貴重な水源として農業の礎(いしずえ)の役割を果たしています。全国に約21万あるため池の多くは長い歴史を有し、農業用水の水源として農業の礎(いしずえ)を担うとともに、地域の文化にも深く関わり、周辺の農地や里山と一体となって多様な生物の生育・生息の場となっています。また豊かな自然環境とのふれあい・やすらぎの場、さらには環境教育の場など、多様な役割も発揮できる場であり、地域振興の核となる可能性を秘めています。
他方、農業者の減少・高齢化に伴い、従来のようなため池の維持管理が難しくなり、防災面での脆弱化や多様な役割の発揮が困難になることも懸念されています。
このため、「ため池百選」を選定し、地域にとっての資源であるため池が、地域活性化の核として保全・活用される取り組みの機運を醸成するとともに、ため池の有する多様な役割と保全の必要性について国民の皆様のご理解とご協力を頂くための契機といたします。

司会者

よくわかりました。それでは、今回受賞した南湖について、お話を頂けますか。

担当者

南湖は、福島県中通り地方の南端に位置する白河市にあります。
「南湖」の造営以前は、南北を丘陵地に囲まれ、東西に延びる谷地で、葦や茅が茂る「大沼」と呼ばれる低湿地でした。寛政12年(1800)の冬に「大沼」の浚渫と、旧大沼土手を利用した築堤工事を始め、翌年享和元年(1801)春までのわずか半年足らずでの期間で完成しました。
それを命じたのが、当時の白河藩主松平 定信でした。『士民共楽』の理念に基づき、自然地形を活かした高度な造園手法を用いて造営した遊観の地です。松平 定信は、その生涯に4つの庭園と、庭園の手法を用いて造った「南湖」がありますが、現存するのは「南湖」のみです。大正13年(1924)に『南湖公園』として国の史跡、名勝に指定されています。南湖にある「南湖神社」は松平定信をまつっています。平成13年は、享和元年(1801)の開園からちょうど200周年に当たり、イベントが開催されました。南湖という名称は、定信公の居城であった小峰城の南にある湖であること、それから唐の詩人李白の詠んだ詩の一節「南湖秋水夜無煙」から取られたといわれています。定信公は、この庭園を「四民共楽の地」とし、一般庶民にも開放しました。身分制度の厳しい時代にあって、武家も庶民も共に楽しもうという思想は、大変に画期的なものだったといえます。
このように、一般に「公園」という形で開放したものとしては、南湖は日本最古のものです。南湖は、公園としての機能の他に

  1. 灌漑用水…南湖周辺の水田に使われ、収穫した作物の収益は、藩校「立教館」の運営に役立てられた。
  2. 貧民救済…南湖を造成するにあたり、職に困っている人たちを工事にあたらせ、給料を支払ってた。(今で言う失業対策)
  3. 水泳の練習…藩士たちの水泳の訓練に用いた。
  4. 操船の訓練…外国からの防衛のため、船の操縦の訓練をさせた。

遠くは西方の那須連峰、近くは東南方の関山を眺望とし、鏡の山・月待山・小鹿山の丘陵に囲まれている。定信は湖畔に松、吉野の桜、嵐山の楓を取り寄せ、松虫・鈴虫を放し、湖に魚を放流し、藩士の水泳・操船のためにも使用したと伝えられる。また、鏡の山には茶亭「共楽亭」を建て庶民にも開放し、定信自ら庭園内に関の湖・鏡の山・共楽亭などの十七の景勝地を選び、諸国の大名や文人に詩歌を求め、歌碑を造らせている。園内には現在南湖開鑿(かいさく)碑をはじめ多くの歌碑・句碑・記念碑などが建っている。
湖水は灌漑(かんがい)用として利用され、今の池下・鬼越などを開発し、それを学田新田と称し、その収益は藩校立教館の経営資金に充てられたという。

司会者

由緒のあるため池ですね。それでは、現在までの南湖の維持管理について、お話を頂けますか。

担当者

昭和38年から実施した県営灌漑排水事業によって南湖の貯水量を増やしましたが、一般的にため池で行っている秋の水抜きを殆ど実施していなかった為に湖水内の悪臭や魚類が死んで浮いていたり等水質の 悪化が原因と見られる状況になったことから白河市と共に平成13年から南湖の水抜きと貯水池内を含む南湖周辺の清掃を市民のボランティアにより実施し、現在まで継続して実施しています。昨年の実施の際は550人の参加がありました。その功績により平成22年度水資源功労者の表彰を受賞しました。これは、国土交通省土地・水資源局によるもので、水資源行政の推進に関し、功績のあった個人及び団体を表彰するものです。
今年も12月4日(土曜日)に実施する予定で、準備中です。

司会者

ありがとうございました。今朝の土地連便りは、ため池百選を受賞した南湖についてお話を伺いました。