市民参加の田んぼアート・微生物発電について
【令和3年2月24日ラジオ放送】
担当者:東京薬科大学大学院 生命科学研究科 生命エネルギー工学研究室 土屋 美愉
司会者:RFCアナウンサー
司会者
農家のみなさんお早うございます。
今朝の土地連だよりは「市民参加の田んぼアート・微生物発電」について
東京薬科大学大学院 生命科学研究科 生命エネルギー工学研究室 土屋美愉さんに話を伺います。宜しくお願いします。
担当者
お早うございます。宜しくお願いします。
司会者
早速ですが、どのようにして微生物が発電しているか教えていただけますか。
担当者
はい。そもそも、私が所属している生命エネルギー工学研究室では「発電菌」と呼ばれる微生物について研究しています。
司会者
「発電菌」ですか。普通の生物とは何が違うのですか。
担当者
普通の生物は生きるためのエネルギーを得るために酸素とご飯が必要です。ご飯を消化すると「電子」というものが出来るのですが、それを呼吸で取り込んだ酸素に渡すことでエネルギーを得ることができます
司会者
なるほど。酸素は電子の受け取り役なのですね。
担当者
そうです。でも、酸素がない環境で生きている微生物の中にはこの「電子」を金属などの他の物質に渡すことができる特別な微生物がいます。これを発電菌と呼びます。
司会者
特別な微生物なのですね。
担当者その発電菌の近くに電極を設置してあげることによって、電極が電子を受け取って電気エネルギーとして使えるようにしています。
司会者面白いですね。その発電菌はどのような場所に多く生息しているのですか。
担当者いろいろな種類の発電菌がいるので生息場所は海や淡水など様々ですが、一般的に微生物がたくさんいる、酸素がなくて栄養がたくさんある土や池の中に多く生息しています。
司会者発電菌は身近なところにいるのですね。
担当者特に、田んぼの土は栄養がたっぷりなので、1gあたりに数十億匹もの微生物が生きています。発電菌はいろんな種類の微生物と協力して生きています。
司会者田んぼで微生物発電をしようと考えたのは発電菌がたくさんいるからですか。
担当者それだけではなく、田んぼという元々人間が利用している土地を使うので、発電のために土地を開拓する必要がないという利点もあります。田んぼの中に発電装置を設置すれば、環境を変えることなく微生物という自然の中に眠っている資源をエネルギー源とすることができると考えました。
司会者稲作をしながら同時に発電もできるというのは夢のような話ですね。
担当者発電をしながらでも美味しいお米がとれます。私たちの研究室では以前から千葉県の野田市の田んぼをお借りして発電性能の向上を目的に実験していて、研究成果を論文にまとめ発表してきました。
司会者田んぼで実験をしているのですか。実験というと屋内で白衣を着て、というイメージでした。
担当者もちろん普段の微生物実験は屋内で行いますが、田んぼ発電実験では電極の設置や発電量の測定をしに定期的に田んぼまで通っています。
司会者毎回通うのは大変そうですが。
担当者そうですね。移動の大変さもありますが、電極の準備からデータの解析まで、1年間かけて行うので実験の規模が大きいというのが大変だと感じています。しかし、毎年田植えや稲刈りにはメンバー全員で参加して非常に楽しいです。また、そこで栽培したお米を研究室で食べています。
司会者田んぼならではの良さがありますね。現在はいわき市の田んぼでも微生物発電実験をされていますが、きっかけはNPO法人の方からの依頼と伺いました。
担当者はい。野田市での私たちの活動が取り上げられたメディアを見ていただいたようで、NPO法人ミッションのわたなべさんからお声がけいただき、4年前からいわき市でも田んぼアートを行なっている井上用水堰土地改良区の一部をお借りして微生物発電の実験をしています。
司会者活動の輪が広がっていきますね。野田市の方では発電性能の向上を目的にしているとおっしゃっていましたが、いわき市ではどのようなテーマで微生物発電の実験を行なっているのですか。
担当者令和2年度は地元の高校生たちとともに田んぼアートに使われる稲で微生物発電実験をしました。田んぼアートには色々な品種の稲が植えられており、品種の違いにより発電量が変わるのか比較しました。
司会者品種によって発電量が変わるという視点は面白いですね。
担当者ありがとうございます。高校生と一緒に発電装置を田んぼの中に埋めたり、発電のメカニズムについて講義をしたりといわきの方々と新たな繋がりを作れたことを嬉しく思います。
司会者お互いにとってとてもいい経験になりますね。
担当者定期的に行う発電量の測定や、測定データをまとめる作業は彼らにやってもらいました。すごく熱心に取り組んでくれていたのが印象的でした。
司会者素晴らしいですね。発電量に違いはあったのですか。
担当者ありました。通常の緑色の葉の品種よりも、黒色や赤色の葉の観賞用品種の方がよく発電したのです。なぜそのような結果になったのかはまだわからないので、今後明らかにしていきたいですね。
司会者明らかになるのが楽しみです。これからも研究頑張ってください。
担当者ありがとうございます。私たちは、多くの方に身の回りにいる微生物について知り、身近に感じてもらいたいと思っています。これからも研究の面白さを発信し、生命科学に興味を持ってもらえるような活動を続けていきたいです。