災害発生時の農業用ため池の点検について

【令和3年5月29日ラジオ放送】

担当者:福島県農林水産部農村基盤整備課 技師 鈴木 智偉
司会者:RFCアナウンサー

司会者

農家の皆さん、おはようございます。
今朝の土地連だよりは、「災害発生時の農業用ため池の点検」について、福島県農林水産部農村基盤整備課 鈴木 智偉さんにお話しを伺います。
よろしくお願いします。

担当者

おはようございます。よろしくお願いします。

司会者

近年、集中豪雨や大きな地震が頻発するなど、自然災害が多く発生していますが、農業用ため池についても、被害が発生しているのでしょうか?

担当者

平成30年7月に発生した豪雨によって、西日本では、農業用ため池が決壊するなどし、下流に大きな被害が発生しました。
また、本県においては、令和元年東日本台風の豪雨による公共インフラや農地への被害が記憶に新しいところです。その際には、複数の農業用ため池が被害を受けています。

司会者

農業用ため池は家屋や幹線道路の近くなど、生活の近くにもありますが、身近に危険な施設があるということなのでしょうか?

担当者

農業用ため池は、水田を中心とした日本の農業において、必要不可欠な水を確保する施設ですが、一方で築造年代が古く、傷んでいたり、適切な管理が行われていない農業用ため池にあっては、災害に伴い、大きな被害が発生するリスクを抱えていることになります。
しかし、すべての農業用ため池が直ちに危険な状態にあるわけではありません。適切な維持管理や必要に応じて補修工事を行うことで本来の農業用水を確保するだけではなく、大雨時には、一次的に水をためて、下流域の洪水を防ぐなど、様々な効果を発揮します。

司会者

維持管理や補修を適切に行っていくことで、農業用ため池を安全に活用してくことが大切になるのですね。

担当者

はい、そうです。今日は、特に維持管理において重要な「災害発生時の農業用ため池の点検」について、ご紹介させて頂きます。
特に、地域で農業用ため池の管理を行っている場合にご参考としてください。

司会者

では、大雨や地震が発生した場合は、まず、どのような対応から行えば良いのでしょうか?

担当者まず行って欲しいのは、基本的なことですが、自分の身の安全を確保することです。災害時に無理に点検を行うことは、二次災害の発生に繋がりますので、避難を優先し可能な範囲で、夜間や降雨時は点検をおこなわず十分に安全が確保された後、実施してください。
安全が確認された後には、まず点検をする農業用ため池へのルートの選定から初めてください。災害発生時には浸水被害や道路の破損などで従来使用している経路が使用できない場合があります。このルートの選定には、関係機関が公開しているハザードマップが参考になりますので、平時からぜひ、ご確認ください。
なお、点検については、事故を防ぐために一人ではなく、必ず複数でおこなうこととしてください。

司会者まずは、自分自身の安全を確保し無理をしないことが大切なのですね。では、農業用ため池に到着した後は、どういった点に注意して点検をすれば良いのでしょうか?

担当者特に注意して見ていただきたい場所は、3箇所ございます。
1つ目は「ため池下流側の水路の状況」、2つ目は「ため池の堤防」、3つ目は「余った水を排出する余水吐、洪水吐」の3箇所です。
それぞれの箇所の見るポイントについて、ご説明します。
まず、1つ目の「ため池下流側の水路の状況」ですが、通常、ため池の点検を行う場合には、下流側から登って見に行くことが多いです。その際には、下流側にある水路の状況から確認してください。見るポイントですが、「降った雨の量に対して、流れてくる水の量が多すぎないか」「土砂を含んだ濁った水が流れてきていないか」この2点が確認できれば、ため池の堤防に現時点で大きな被害が出ていないことが推測できます。
次に、2つ目の「ため池の堤防」についてです。見るポイントは、「堤防の下流側に漏水している穴などがないか」「堤防の上流側の護岸ブロックはズレや沈下をおこしていないか」これら2点を中心に、前回の点検時点と比較して、ため池の堤防に亀裂や変形がないかを確認してください。特に、漏水が確認された場合には、濁った水が出ていないかを注意して点検してください。
最後に3つ目「余った水を排出する余水吐、洪水吐」を見るポイントですが、「流れてきた流木などで流れが阻害されていないか」「コンクリート構造物に、ひび割れ、傾き、つなぎ目の大きなひらきが発生していないか」特にこの2点を確認してください。余水吐、洪水吐が正常に機能しなければ、ため池が大きな被害をうけることに繋がってしまいます。

司会者災害後の被害を把握するためにも日常の点検は大切なのですね。

担当者そうです。日常の点検や緊急時への備えがとても大切になります。
緊急時への備えの例ですが、梅雨前線や台風の接近など、予め気象予報により、豪雨が予測される場合には、事前に農業用水の量に支障がない範囲で農業用ため池の水位を下げて、豪雨に備えることは、洪水被害を軽減するうえで、大変有効な対応です。

司会者今回ご説明いただいた、ため池への被害が確認された場合は、どこへ連絡をすれば良いのでしょうか?

担当者ため池に関する被害を確認しましたら、市町村の農業用施設やため池の管理を所管している部署、又は、県農林事務所にお問い合わせください。
最後に、国、県、市町村が推進している農業用ため池の防災工事等の取組について、ご紹介いたします。
昨年10月1日に施行された「防災重点農業用ため池に係る防災工事等の推進に関する特別措置法」に基づき、ため池が決壊した場合の浸水区域に家屋や公共施設等が存在し、人的被害を与える恐れのある農業用ため池を「防災重点農業用ため池」として、本県では、令和2年度末に1,414ヵ所指定しています。
この指定をしたため池を対象として調査を行い、令和3年から令和12年までの10箇年で集中的に防災工事等の対策を推進していくこととしております。
地域の防災・減災を目的とした農業用ため池に係る本事業について、ご理解とご協力のほどよろしくお願い致します。

司会者ありがとうございました。
今朝は、「災害発生時の農業用ため池の点検」について、福島県農林水産部 農村基盤整備課 鈴木 智偉さんにお話を伺いました。